H・G・ウェルズの小説『宇宙戦争』は、火星人がイギリスへ襲来し、圧倒的な兵器で人間社会を崩していく物語です。主人公は侵略者を倒す英雄ではなく、突然、日常を失い、生き延びようとする語り手です。

原題は The War of the Worlds。1898年に刊行された原作小説を扱います。「結末までのあらすじ」以降にはネタバレがあります。 2005年版などの映画の設定とは分けて紹介します。

ネタバレなしのあらすじ

イギリスの郊外へ、流星のような物体が落下します。近づいた人々が目撃したのは、円筒の中から姿を現す火星人でした。

好奇心を持って集まった人々は、火星人の熱線によって襲われます。やがて、巨大な三本脚の戦闘機械が動き出し、侵略は周囲へ広がります。

語り手は妻を避難させますが、その後、彼女と離ればなれになります。軍隊も侵略を止められず、人々は安全な場所を求めて逃げ始めます。

原作の基本設定と刊行年は、東京創元社の作品・著者紹介で確認できます。

原作の登場人物

人物 物語での立場
語り手の「私」 イギリスで火星人の襲来を体験し、生き延びようとする人物です
語り手の妻 避難の途中で語り手と離ればなれになります
語り手の弟 ロンドンから逃れる人々の様子を伝える役割があります
副牧師 語り手と行動を共にし、破局の中で精神的に追いつめられていきます
砲兵 火星人に支配された世界で、人類が生き残る計画を語ります

語り手が実際に見たことと、弟などから知った出来事が組み合わされています。戦争全体を見渡せる司令官の視点ではないため、情報が足りないまま逃げる人間の不安も伝わります。

トライポッドとは? 火星人の兵器を整理

トライポッドは、火星人が使う三本脚の戦闘機械です。火星人そのものが三本脚のロボットなのではありません。原作では、火星人の身体と、彼らが操る機械が区別されています。

兵器・道具 原作での役割
三本脚の戦闘機械 地上を移動し、人間の防衛や暮らしを脅かします
熱線(Heat-Ray) 近づいた人間や建物などを焼き払う兵器です
黒い煙(Black Smoke) 人間を襲う有毒な煙として使われます

三脚機械の描写は英語原作でも確認できます。映画版のデザインや模型を調べている場合は、その映画の製作年も確認してください。原作の説明だけでは、各映画の機械の仕様まで同じものとして扱えません。

結末までのあらすじ【ネタバレ】

軍隊の敗北と、人々の避難

火星人の戦闘機械と兵器の前に、人間の防衛は崩れていきます。人々は家や仕事を捨てて逃げ、ロンドンにも混乱が広がります。

語り手も、最初から侵略者の性質を正しく理解しているわけではありません。安全だと思った場所が失われるたび、判断を変えながら逃げることになります。

隠れ場所で、火星人の支配を目撃する

語り手は副牧師とともに、壊れた家の中から火星人の活動を見ます。地球人が、人間として尊重される相手ではなく、侵略者の都合で扱われる存在になっていることが分かります。

その後に会う砲兵は、生き残った人類が地下で新しい社会を作る構想を語ります。しかし、大きな計画を語ることと、それを実行することの間には隔たりがあります。語り手は、その言葉だけを頼りにはできません。

火星人を倒したのは、地球の細菌でした

語り手がロンドンで発見するのは、動かなくなった機械と、死んだ火星人です。人間の決戦兵器が勝利をもたらしたのではありません。火星人は、地球の細菌に対する抵抗力を備えていなかったため、死んでいました。

原作は、人類が強いから生き残ったという筋にはなっていません。地球の環境の中で生きてきた人間と、外から来た侵略者の違いが、最後に戦いを終わらせます。この結末は、平塚市博物館の作品解説でも紹介されています。

主人公は死んだのでしょうか?

原作の語り手は生き延び、妻と再会します。ただし、破局を経験する前の感覚が、そのまま戻るわけではありません。平穏な街にも、侵略の記憶が重なります。

終わりを「主人公が侵略者を倒し、すべて元どおりになった」と説明すると、結末の意味が変わってしまいます。侵略が終わることと、傷ついた人間が体験を忘れることは別です。妻との再会と、その後の記憶は英語原作の終盤に描かれています。

結末の意味――なぜ細菌なのでしょうか?

優れた技術を持つことと、ある環境で生きられることは同じではないからです。火星人は兵器の面では強くても、地球で生きる条件まで支配していたわけではありません。

人間にとってはごく小さな存在が、巨大な戦闘機械より決定的な力を持ちます。この逆転によって、人間の勝利の物語から、自然の中で生きる存在の物語へと見方を変えられます。

ただし、細菌の存在を知って、人間が意図的に生物兵器を作ったという展開ではありません。また、火星の環境について作中にある説明を、現在の科学で確認された事実として読むこともできません。

宇宙人の侵略を通して何を描いているのでしょうか?

一つは、力のある側が他者をどう扱うかという問題です。イギリスが、強大な侵略者に支配される側へ置かれます。帝国主義の力関係を反転させた物語として読む背景は、中村融による訳者あとがきで詳しく説明されています。

もう一つは、破局の中の人間です。副牧師や砲兵は、恐怖に耐えられなくなる人間や、壮大な計画に希望を託す人間の姿を見せます。兵器の強さだけを追うと、人間が何を支えに生きるかという側面を読み落とします。

同じウェルズの『タイムマシン』では、階級の隔たりが遠い未来の人類の姿に重ねられます。二作品を比べると、未来や異星人という設定を通して、現在の社会を問い直す読み方が見えてきます。

映画やラジオドラマとの違い

『宇宙戦争』は、1953年版や2005年版など、複数の映画の原作になっています。日本語版の紹介でも、これらの映像化との関係が案内されています。

この記事の人物表と結末は、小説に合わせています。同じ題名でも、映画版の主人公の名前や家族構成、機械の演出を、そのまま原作の説明に混ぜないようにしてください。

また、小説を書いたH・G・ウェルズと、1938年のラジオドラマに関わったオーソン・ウェルズは別の人物です。この区別は、先に挙げた博物館の解説でも確認できます。

日本語で原作を読む場合は、中村融訳の『宇宙戦争【新訳決定版】』などがあります。児童向けの版や漫画版もあるため、買う前に訳者と版を確認すると、自分が読みたい原作を選びやすくなります。