『都市と星』は、不死の都市ダイアスパーで暮らすアルヴィンが、外の世界と人類の過去を探るアーサー・C・クラークの小説です。生まれ変わる住民たちの中で、彼だけは以前の人生の記憶を持ちません。その違いが、都市に閉じこもる暮らしへの疑問につながります。
ここではネタバレなしの概要から、もう一つの共同体リス、宇宙への旅、最後に明かされる歴史まで整理します。後半は結末に触れます。
『都市と星』の原作と版の違い
原題は The City and the Stars。1956年に刊行された作品で、早川書房の新訳版は酒井昭伸訳です。出版社の紹介で確認できます。
前身に Against the Fall of Night があります。クラークはそれを大幅に改稿して『都市と星』を書きました。SF百科事典のクラーク項目も、二つの版を区別しています。基本設定が重なる作品でも、細部や展開をそのまま同じものとして扱うことはできません。この記事は The City and the Stars を対象にしています。
ネタバレなしのあらすじ
はるかな未来、地球の多くは砂漠になっています。ダイアスパーでは中央コンピューターが環境を維持し、人間の記憶まで保存します。住民は長い人生を終えると記憶の貯蔵へ戻り、後に新しい身体で再び生きる仕組みです。
都市で暮らす人々は外へ出ることを恐れています。過去に宇宙へ進出した人類が恐ろしい敵に敗れ、地球へ閉じこもったという歴史が伝えられています。安全な都市の外を知ろうとする理由は、彼らには見当たりません。
しかし、アルヴィンは外の世界に引かれます。前世の記憶を持たない彼は、ほかの人と同じ恐れを抱かず、都市の境界を越える道を探します。やがて、都市が世界のすべてだという思い込みも揺らぎ始めます。
アルヴィンに前世の記憶がないのはなぜですか?
アルヴィンは、記憶庫から以前の人物を再生した住民とは異なる、新しい個人として生まれた存在です。記憶が戻らないだけの、以前からいる同一の住民として描かれているわけではありません。彼の違いは、閉じた都市の外を知るきっかけにもなります。
ダイアスパーとリスの違い
ダイアスパーの外には、リスという人間の共同体が存在します。こちらでは人が自然に生まれ、年を取り、死にます。人々は精神の力を発達させ、テレパシーによる意思疎通を行います。
| 比較 | ダイアスパー | リス |
|---|---|---|
| 生と死 | 記憶を保存し、身体を再生します | 誕生と老い、死があります |
| 暮らしの基盤 | 高度な機械と中央コンピューター | 自然環境と精神の能力 |
| 外との関係 | 都市の外を恐れます | 自分たちの共同体を守り、宇宙への進出に消極的です |
外に別の社会があったと分かっても、そこが無条件に開かれた場所だというわけではありません。リスの人々にも、自分たちの世界を守るためアルヴィンの行動を制限しようとする面があります。二つの社会にはそれぞれの利点と閉鎖性があります。
あらすじと結末【ネタバレあり】
都市の外に残っていた道
アルヴィンは古い交通網を通じてリスへたどり着き、ヒルヴァーと知り合います。二人は過去の痕跡を訪ね、シャルミレインで異星の存在とロボットに出会います。ロボットは重要な情報を持っていますが、命令によってそれを話せません。
ダイアスパーへ戻ったアルヴィンは、中央コンピューターの助けでロボットの制約を越えます。そして、地球の外へ行ける宇宙船が残っていると知ります。都市を支える機械も、彼の探求を助ける働きをします。
宇宙で出会う、肉体を持たない知性
アルヴィンとヒルヴァーは宇宙へ出て、肉体を持たない巨大な知性に遭遇します。テレパシーを使えるヒルヴァーの能力が、理解の手がかりになります。ダイアスパーの技術だけでも、リスの能力だけでも届かなかった発見です。
そこから、人類が信じてきた過去の物語が組み直されていきます。侵略者に敗れたため誰も地球を離れられない、という説明は事実そのままではありません。恐れを伝える歴史の背後には、人類がかつて行った、肉体を持たない知性を作る実験がありました。
侵略者と人類の歴史の真相
実験の最初の結果は、強大で危険な知性でした。銀河へ大きな被害をもたらし、封じ込められます。その後に作られた知性は、圧倒的な力を持ちながら、まだ成熟の途上にある存在です。アルヴィンたちが出会うのはこちらです。
シャルミレインについても、侵略者を撃退した要塞という伝承が修正されます。地球に迫る月を破壊するために用いられた場所だったのです。身近な地形の意味さえ、伝えられた説明とは異なっていました。
人類の多くはさらに遠い宇宙へ去り、地球に残った人々は閉じた暮らしを選びました。地球の都市に伝わる歴史は、宇宙の全体像をそのまま保存したものではなかったのです。
アルヴィンは最後に何を選ぶのですか?
発見はダイアスパーとリスをつなぎ、二つの社会が交流する道を開きます。アルヴィンはロボットに宇宙船を託し、去った人類を探す旅へ送り出します。一方、自分は地球に残り、目の前の世界を変える仕事へ向かいます。
外へ出ようとした物語の終わりで、彼は帰ってきた場所にも可能性を見ます。都市から逃れるだけではなく、都市と外の共同体が一緒に変わることが結末の要点です。
不死の都市はユートピアですか?
ダイアスパーは、食料や住まい、生と死の多くの不安を解決しています。しかし、外を恐れる仕組みは、人が自分の可能性を試す行動も抑えます。安全を実現した都市が、そこに生きる人の選択まで十分に支えているのかが問われます。
リスもまた、自然な生命の循環を持ちながら、自分たちの存在を守るため外との接触を制限します。どちらか一方を理想の社会と決めるより、二つの社会が互いを知る結末から読むと、対比の意味が見えてきます。
未知の相手を調べるクラークの作品には『宇宙のランデヴー』もあります。自分たちの歴史を再発見する本作と、通過する異星船を探査する物語では、最後に得られる答えの形が異なります。