『タイム・リープ あしたはきのう』は、記憶の抜けた日を持つ女子高校生が、クラスメートとともに時間移動の謎を解く、高畑京一郎の小説です。主人公が昨日を忘れたように見えるのは、出来事を順番どおりに経験していないためです。

1995年に刊行され、電撃文庫版、2022年のメディアワークス文庫の新装版は上下巻で読めます。ここでは小説の設定を先に紹介し、後半で犯人と結末のネタバレを扱います。初刊の書誌

あらすじ:知らない自分の日記が、若松くんを頼るよう伝えます

高校二年生の鹿島翔香は、自分に昨日の記憶がないことに気付きます。ところが日記には、自分の筆跡で、クラスメートの若松和彦に相談するよう書かれています。

若松は、校内でも頭のよい生徒ですが、翔香が気軽に相談できる親しい相手ではありません。なぜ自分は彼を頼るよう書いたのでしょうか。

半信半疑の若松と状況を調べるうちに、単なる記憶喪失では説明できない出来事がつながり始めます。二人は、翔香に起きる時間移動の規則を探ります。新装版上巻の公式紹介

翔香と若松は、どんな人物ですか?

人物 役割
鹿島翔香 時間移動を経験する高校二年生です。自分の体験の空白に戸惑います
若松和彦 翔香のクラスメートです。彼女の話を分析し、現象の法則を探ります
関鷹志 若松の親友です
若松美幸 若松の妹です

二人の違いは、翔香が経験している順番と、若松が見ている順番が一致しない点にもあります。昨日の若松と今日は話が通じても、過去へ飛んだ先の若松は、まだ事情を知らないかもしれません。人物と版の一覧

タイム・リープの仕組み:身体ではなく、意識が移動します

ここからは時間移動の法則に触れます。

本作では、翔香の身体が別の年代へ現れるわけではありません。意識が、別の時点にある自分の身体へ移ります。そして、同じ時間を好きなだけ繰り返せるわけでもありません。

移動には恐怖が関わり、安全だと認識できる時点へ逃れます。二人は、起きた出来事と、翔香がそれをいつ知ったかを照合しながら規則を探ります。時間移動の法則を整理したネタバレ書評

つまり、読者は二つの順番を見ることになります。

順番 何を見るか
カレンダーの順番 周囲の人が経験する出来事の前後です
翔香の経験の順番 翔香がどの時点へ入り、何を知ったかです

この二つを分けると、「相手が昨日の話を知っているのに、自分は知らない」という違和感を整理できます。

同じ日が出てくるのに、同じ時間をやり直していないのですか?

日付と、その日に経験済みの時間帯は別です。ある曜日に戻ることと、すでに体験した瞬間をもう一度自由にやり直すことを、一緒にしないほうが読みやすくなります。

また、読者が日記を見た時点と、それを書いた翔香の経験の時点も、必ずしも同じ順番には並びません。手紙や日記は、互いの知識がずれた自分たちをつなぐ手掛かりです。

この作品を時間パズルとして評価する書評では、謎に一貫した法則があることが重視されています。年間読書人の書評

結末:翔香を狙っていたのは誰ですか?【ネタバレ】

翔香に危害を加えようとしていたのは、英語教師の中田輝雄です。彼に襲われた恐怖が、時間移動の始まりに関わっています。

若松は、翔香が伝える情報と自分が確認できる出来事をつなぎ、彼女を守ります。やがて襲撃の問題を解決し、翔香は経験していなかった時間を埋めていきます。

最後には若松のもとへ帰り、冒頭の場面が何だったのかも分かります。物語の始めには意味の分からなかった出来事が、二人の旅を追った後には別の意味で読める構成です。犯人と終盤を確認した書評

冒頭とラストの関係:別の翔香が増えるのですか?

別の身体の翔香が、新たに生まれるという説明ではありません。同じ人物について、身体がいる時点と、意識が経験してきた順番を分けます。

「最初に戻ったのなら、そこまで解決した翔香は消えたのか」と考えると、別の人物同士が交代したように見えます。しかし本作では、一人の翔香がどの時間を体験済みなのかを見るほうが、結末につながります。

最後まで追うと、冒頭は単に後で説明を付けた飾りではなく、時間移動の構造を組み立てる場面だと分かります。序章を読み返すときは、翔香だけでなく、その時点の若松が何を知っていたかにも目を向けてみてください。

新装版と旧版は、別の続編ですか?

新装版は『あしたはきのう』の再刊で、別の続編ではありません。電撃文庫版も新装版も、上巻から下巻へ読む形です。

版 刊行 読む順番
単行本 1995年 一冊の本として刊行されました
電撃文庫版 1996年 上巻→下巻です
新装版・メディアワークス文庫 2022年 上巻→下巻です

新装版の下巻も、上巻からの謎を引き継ぐ本です。KADOKAWA:新装版下巻

版の違いを細かく知りたい場合は、文章や収録内容の変更を確認した新装版と旧版の比較記事が参考になります。表紙が異なるだけ、と決め付けず、どの版を読んでいるかを確かめるとよいでしょう。

この小説は、恋愛ものですか? ミステリーですか?

時間移動の法則を解くミステリーと、二人の関係が変わる青春の物語が重なっています。謎の構造と人物の描写は、分けて評価することもできます。

上位の書評にも、時間パズルを高く評価しつつ人物造形には異なる感想を持つものと、二人の関係を中心に読むものがあります。論理的な構成を扱う書評、二人の関係を扱う感想

比較して読むなら、筒井康隆『時をかける少女』の原作解説も、少女と時間移動を描く別の小説です。題材は近くても、時間移動の規則や結末をそのまま当てはめることはできません。

未来が分かったまま、二人の人生は続くのですか?

時間移動の問題が収まっても、二人がその先のすべてを知っているわけではありません。今回の出来事をつなぎ直すことと、これからの人生を予言できることは別です。

二人の関係を扱った感想でも、ラストで未来が未知に戻る点が注目されています。ここは、過去の謎が解けた後にも、これから一緒に過ごす時間はまだ開かれている、と読める場面です。

参照した資料