『火星の人』は、火星に一人取り残された宇宙飛行士マーク・ワトニーが、科学知識と手元の道具で生き延びようとする小説です。アンディ・ウィアーの作品で、映画『オデッセイ』の原作にあたります。

小説と映画は、取り残されたワトニーを仲間と地球側が救うという大筋を共有しています。一方、通信が再び途絶える展開、移動中のトラブル、最後の救出場面には違いがあります。原作のあらすじと結末を先に整理し、そのあとで映画と比較します。

ネタバレなしのあらすじ

有人火星探査のアレス3ミッションは、嵐によって中断されます。撤退中、飛ばされたアンテナで負傷したワトニーは、通信や生命反応の確認ができなくなり、死亡したと判断されます。隊長ルイスは、残る乗組員の安全のため、彼を残して火星から離れます。

ところが、ワトニーは生きていました。居住施設ハブや探査車ローバーは使えますが、食料には限りがあります。地球に連絡する通信手段もありません。

次の探査隊が来るまで待つには、残された物資だけでは足りません。植物学と工学を専門とするワトニーは、生きるための問題を一つずつ分け、自力で対処し始めます。出版社の原作紹介でも、食料を確保する試行錯誤と、地球側の救出計画が物語の軸になっています。

原作小説のあらすじと結末【ネタバレ】

ジャガイモの栽培と、地球との再接続

ワトニーはハブの中でジャガイモを育て、水と食料の確保に取り組みます。成功した作業もありますが、一度うまくいけば、その後も安全に暮らせるわけではありません。

地球側では、衛星写真に写る施設周辺の変化から、彼が生存していることに気づきます。ワトニーも過去の探査機マーズ・パスファインダーを回収し、地球との通信を復旧させます。

しかし、ハブのエアロックが破損して施設内が減圧し、育てていた作物は失われます。地球側も、急いで送り出した補給用ロケットを失います。救助を待つ間の食料も、食料を直接届ける計画も、うまくいかなくなります。

仲間の船を戻す計画

新しい案は、地球へ向かっている宇宙船ヘルメスを火星へ戻すことです。地球の重力を利用して軌道を変更し、中国側のロケットでヘルメスへ補給を行います。

この案は他の乗組員も危険にさらすため、地球側の責任者は認めません。それでも、ワトニーの仲間たちは計画を知り、自分たちの意志で火星へ戻ることを決めます。

ワトニーは、次のミッション用に先に設置されている火星上昇機へ向け、ローバーで長距離を走らなければなりません。原作では、この準備中にパスファインダーを壊してしまい、地球との双方向の通信を失います。

原作の最後は、どうやって助かりますか

走行中には、太陽電池の発電を妨げる砂嵐や、ローバーの横転が起きます。それらを切り抜け、ワトニーは次のミッションの火星上昇機に到着します。地球と通信しながら、ヘルメスに届くよう機体を大幅に軽量化します。

打ち上げても、予定どおりに接近できるわけではありません。ヘルメス側も軌道と速度を調整し、最後には空気を放出する方法で減速します。

小説では、船外活動担当のベックがワトニーを回収します。ワトニーはヘルメスに収容され、救助が実現します。映画の、ルイスが直接迎えに行く場面と区別しておくと、二つの結末を取り違えずに済みます。

『火星の人』と映画『オデッセイ』の違い

以下は結末を含む比較です。

比較する場面 原作小説『火星の人』 映画『オデッセイ』
科学的な計算や作業 ワトニーの記録を通じて過程を詳しく追います 過程を整理し、映像で進行を見せます
通信の再断絶 作業中の故障で、再び地球と会話できなくなります 原作にあるこの再断絶の展開は省かれています
長距離走行 途中の砂嵐への対応や横転も描かれます これらのトラブルを省き、救出へ進みます
最後に迎えに行く人物 ベックが回収します ルイスが直接迎えに行きます
宇宙服の空気による移動 ワトニーの案は採用されません 宇宙服を破り、噴き出す空気を使う場面があります
救出後の描写 救助されたワトニーの記録を中心に閉じます 地球に戻り、教官として話す場面や後の人々の姿が加わります

つまり、同じ危機を同じ手順で切り抜ける作品ではありません。映画を見たあとでも、小説には、なぜその作業が必要になり、どこで計画が崩れるのかを詳しく追う楽しみがあります。

ワトニーが、絶望だけで語られない理由

小説には、ワトニーが残すログの語り口があります。切迫した状況でも、悪態や冗談が入り、本人が問題をどう受け止めているかが伝わります。

また、彼一人がすべてを解決するわけではありません。生き延びる工夫は火星で行いますが、救出には地球の研究者、管制側、他国の宇宙機関、ヘルメスの仲間たちがかかわります。

食料を増やす、通信する、移動する、打ち上げる、回収する。それぞれの段階に別の問題があり、別の人々の仕事があります。この積み重ねが、救出までの物語を支えています。

日本語版と、次に読む作品

日本語版の翻訳は小野田和子です。新版は上下巻で刊行されており、映画『オデッセイ』と題名が異なっていても、別の原作を指しているわけではありません。

同じ著者の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も、知識を使って一つずつ危機に対処する物語です。こちらは火星からの個人の生還よりも大きな問題を扱うため、『火星の人』の後日談として読む作品ではありません。