アシモフの『神々自身』は、並行宇宙との物質交換によって得られるエネルギーと、その代償を描くSF小説です。地球、異なる宇宙、月の三つの舞台を通じて、便利な装置の危険を誰が認め、どう解決するかが問われます。

宗教の神々を登場人物にした物語ではありません。物理法則が異なる宇宙と、そこで生きる知的生命が物語の中心です。ここでは、3部のつながりと結末を整理します。

ネタバレなしのあらすじ

化学者ハラムは、研究室のタングステンが、こちらの宇宙では存在できないプルトニウム186に変わっていることを発見します。それは、並行宇宙の知的生命が送ってきたものでした。

二つの宇宙では、安定する物質や物理法則が異なります。その違いを利用し、物質を交換してエネルギーを得る装置が「エレクトロン・ポンプ」です。人類は、ほとんど費用がかからないエネルギー源としてこの装置を歓迎します。

しかし、研究者ラモントは、装置が使われ続けることで両方の宇宙に変化が起きるのではないかと疑います。便利な技術に依存し、その功績で権威を得た人々に、警告は受け入れられるのでしょうか。

3部構成は、どうつながっていますか

部 舞台と主な人物 物語の焦点
第1部 地球。ハラム、ラモント 装置の発見と、危険を訴える側の孤立
第2部 並行宇宙。デュア、オディーン、トリット 相手側の生命と、装置が必要とされる事情
第3部 月。デニソン、セルニ 危険の実証と、新しい交換方法の探索

第2部へ進むと、視点も生物のあり方も大きく変わります。ただし、無関係な異星人の物語が挟まるわけではありません。第1部で地球が交換していた相手側の事情を、内側から描いています。

あらすじと結末【ここからネタバレ】

第1部:無料のエネルギーに隠された危険

ラモントは、装置の利用がこちらの宇宙の核力を変化させ、やがて太陽を爆発させる危険につながると考えます。これは本作の架空の物理設定に基づく問題です。

ラモントは言語の専門家の助けを借り、交換する物質に記号を書いて、相手側との対話を試みます。しかし、通信相手は装置を止める権限を持つ支配者ではありません。危険を理解していても、そちら側でも運用を止められない者でした。

双方に問題を理解する者がいることと、双方の社会が装置を止められることは一致しません。第1部は、その行き詰まりを残します。

第2部:デュアたちと、三つの性を持つ生命

並行宇宙には、理性、感性、子を育てる役割に対応する三つの性を持つ生命がいます。オディーン、デュア、トリットは、それぞれ異なる役割を持つ三つ組です。

デュアは、装置によって地球側が危険にさらされることを知り、警告を送ろうとします。一方、自分たちの世界では恒星から得られるエネルギーが不足しています。相手の宇宙を犠牲にしてでも、装置を利用したい事情があります。

異星人全体が一つの意志で動いているわけではありません。デュアの反対、他の者の生存への欲求、社会を動かす側の判断がぶつかります。

第2部の最後には、三つ組と、社会を支配する硬い姿の生命が別種ではないことも明らかになります。三つ組は融合して成熟した個体となり、デュアたちの成熟した姿は、装置の開発者エストウォルドでした。反対者だったデュアと、問題を生んだ側とを、単純に別の陣営に分けられなくなる結末です。

第3部:デニソンは何を解決しますか

ハラムとの対立によって科学界を離れていたデニソンは、月で研究に取り組みます。地球上の権威から距離を置いた場所で、セルニらの協力を得て、装置がもたらす変化を調べます。

解決の鍵は、最初の相手とは異なる、第三の宇宙との交換です。こちらの宇宙に与える影響が逆向きになる相手を利用することで、従来の交換による偏りを釣り合わせられます。

結末は、危険な装置を見つけたので、単純にすべて捨てて終わる話ではありません。危険を実証したうえで、エネルギーを得ながら破滅を避ける別の道を探し出します。さらに物質だけでなく運動量の交換も、新しい宇宙航行の可能性を開きます。

題名『神々自身』の意味

題名と3部の章題は、愚かさには神々さえ勝てないというシラーの言葉に由来します。しかし、本作の最後の部の章題には疑問符が付きます。

危険を知っても、自分の功績や社会の便利さを優先してしまう。そうした判断に、知識だけで勝てるのでしょうか。第1部と第2部では、それぞれの社会が同じ問題を抱えます。

第3部では、警告を繰り返すだけでなく、使える別の方法を示します。愚かさとの戦いがすべてむなしいと決めつけず、状況を変える余地を残した結末として読めます。

受賞歴と日本語版

『神々自身』は、1972年のネビュラ賞長編小説部門と、1973年のヒューゴー賞長編小説部門を受賞しています。二つの賞の年は同じではありません。

日本語版は小尾芙佐訳です。大学図書館の書誌情報では、1986年のハヤカワ文庫版と原題 The Gods Themselves を確認できます。

利益の大きい仕組みが、長い目で見れば未来を狭めるという問題は、同じ著者の『永遠の終り』とも比較できます。こちらはエネルギーではなく、歴史を管理する組織を扱った小説です。