『エンダーのゲーム』は、異星人との戦争に備えて軍の学校へ送られた天才少年が、過酷な訓練のなかで指揮官として育っていくSF小説です。作者はオースン・スコット・カード。主人公のエンダーは、敵に勝つ才能と、相手を傷つけることへの恐れを併せ持っています。

この記事では原作小説のあらすじと結末を解説します。同名の映画には省略や変更があるため、最後に違いも整理します。まずはネタバレなしで紹介し、その後に最後の戦いと戦後の出来事を扱います。

目次

『エンダーのゲーム』のあらすじ【ネタバレなし】

未来の地球は、昆虫に似た異星人バガーによる二度の侵攻を退けていました。三度目の攻撃に備え、国際艦隊は宇宙にバトル・スクールを設け、優れた子どもを指揮官候補として集めます。

そこへ選ばれるのが、6歳のアンドルー・ウィッギン、通称エンダーです。兄のピーターと姉のヴァレンタインにも高い知能がありますが、軍の求める資質に合わず、候補から外れていました。

エンダーは家族から離れ、無重力空間での模擬戦やコンピューター・ゲームに取り組みます。勝ち続けるほど責任は重くなり、仲間と親しくなっても、すぐに別の隊へ移されます。軍は人類を救う指揮官を必要としている一方、エンダーは、その期待に応えるために孤独や暴力と向き合うことになります。

地球に残った兄と姉も、ネット上の論争を通じて政治に関わっていきます。三人の子どもが、それぞれの方法で世界を動かす物語でもあります。基本設定は、早川書房の作品紹介と原書出版社の紹介で確認できます。

主な登場人物

人物 役割
エンダー 主人公。戦術を考え、仲間を率いる才能を持つ少年です。
ヴァレンタイン エンダーの姉。彼にとって大切な理解者です。
ピーター エンダーの兄。弟に暴力を振るう一方、政治的な野心と知性を持っています。
グラッフ バトル・スクールの責任者。エンダーを指揮官に育てるため、厳しい環境を与えます。
ペトラ エンダーに射撃を教える先輩。のちに艦隊戦でも協力します。
アーライ バトル・スクールでエンダーと親しくなる仲間です。
ビーン エンダーの隊で活躍する少年。別の小説『エンダーズ・シャドウ』の主人公でもあります。
ボンゾ エンダーが所属する隊の指揮官。彼を敵視します。
メイザー・ラッカム かつてバガーの侵攻を退けた英雄。後半でエンダーを指導します。

原作小説のあらすじと結末【ここからネタバレ】

ここからは、最後の戦いの真相と、戦争が終わったあとのエンダーの選択まで説明します。

結末では、エンダーが訓練だと思って指揮した艦隊戦が、実戦だったと明かされます。 彼の作戦でバガーの母星は破壊されますが、戦後に生き残った女王の繭が見つかります。エンダーはその繭を守り、女王が暮らせる場所を探す旅へ進みます。

バトル・スクールで、勝ち続けることを求められる

エンダーは、相手の行動や考え方を読み取るのが得意です。周囲の子どもから狙われると、その場をしのぐだけでなく、二度と攻撃されないように相手を徹底的に倒そうとします。しかし、その暴力に、自分が恐れている兄ピーターとの共通点を見つけて苦しみます。

バトル・スクールでも、エンダーは上級生の隊へ早くから移され、のちにドラゴン隊を任されます。若い隊員たちを率いて勝利を重ねますが、対戦の頻度や条件は厳しくなるばかりです。軍は、十分な休息や公平な試合より、追い詰められた状況でも勝てる指揮官を求めています。

模擬戦の舞台は、無重力のバトル・ルームです。銃で相手の戦闘服を動けなくし、隊を率いて勝利条件を満たします。エンダーは、床がある部屋の感覚を捨て、敵のゲートがある方向を「下」として動く戦術を考えます。脚を前にして体を小さく見せるなど、無重力の条件を味方につけるのです。

彼を敵視するボンゾに襲われたときも、エンダーは激しく反撃します。勝つ力が強くなるほど、相手を傷つけることへの恐れも深くなっていきます。

地球では、ピーターとヴァレンタインが世論を動かす

エンダーが宇宙で訓練している間、地球では兄のピーターが「ロック」、姉のヴァレンタインが「デモステネス」という名でネット上の論争に参加します。二人は異なる主張を使い分け、発言力を高めていきます。

この筋は、エンダーの休暇中だけの挿話ではありません。バガーという共通の敵がいなくなったあと、人類同士の対立を誰がどうまとめるかにつながります。エンダーが軍事の場で使われる一方、兄と姉は言葉を使って政治に関わっているのです。

メイザーのもとで艦隊戦を指揮する

次のコマンド・スクールでは、メイザー・ラッカムのもとで艦隊戦に取り組みます。バトル・スクールで一緒に戦った仲間たちも、エンダーを支える指揮官として加わります。

エンダーには、これがシミュレーションによる訓練だと説明されています。戦いは次第に難しくなり、彼も仲間も疲れ果てます。最終試験では、バガーの母星を取り囲む大艦隊を相手にすることになります。

最終試験は、実際の戦争だった

エンダーは、味方の艦隊を犠牲にして攻撃を母星へ届かせ、分子破壊兵器で惑星を破壊します。敵の艦隊も活動を止め、人類側の大人たちは勝利を喜びます。

そこで明かされるのが、シミュレーションだと思っていた艦隊戦は、実際の戦争だったという真相です。エンダーたちの指示は、超光速通信装置アンシブルを通じて、遠くの人類の艦隊へ送られていました。

エンダーは、人類を救う一方で、異星の知的生命体を滅亡へ追い込んだことになります。訓練だと信じて下した判断が、現実の命を奪っていたのです。この真相は、大野万紀による『死者の代弁者』新訳版の解説でも、前作のおさらいとして説明されています。

エンダーは、以前の喧嘩やボンゾへの反撃でも、相手を死なせていたことを知らされます。二度と攻撃されないための行動が、どこまでの被害を生んでいたのか。彼が知らないまま戦い続けていたという事実は、学校での暴力と最後の艦隊戦に共通しています。

女王の繭を見つけ、戦争のあとを引き受ける

原作では、戦後、エンダーはヴァレンタインとともに、かつてバガーが暮らしていた惑星への移住に参加します。そこで、バトル・スクールの心理ゲームに出てきた風景と同じものを見つけ、その先で生き残った女王の繭に出会います。

バガーは女王を中心に意識を共有する種族です。当初、人間にも同じような仕組みがあると考え、人間一人ひとりが独立した意識を持つことを理解していませんでした。女王から伝えられるのは、その誤解と後悔です。

エンダーは、失われた種族のことを人類へ伝える書物を書き、〈死者の代弁者〉を名乗ります。そして、女王が再び種族を育てられる場所を探すため、ヴァレンタインと旅を続けます。

母星を破壊する場面だけで、この小説は終わりません。戦争に勝ったエンダーが、滅ぼした相手の声を聞き、その後の責任を引き受けるところまでが結末です。

3種類のゲームを区別すると、結末が分かりやすい

バトル・スクールでの訓練が、すべて実戦だったわけではありません。 最後に正体が明かされるのは、コマンド・スクールでメイザーを相手にしていると教えられた艦隊戦です。

ゲーム・訓練 エンダーがしていること 物語での役割
バトル・ルームの模擬戦 無重力空間で、他の子どもの隊と対戦します。 戦術とチームの指揮を学ぶ訓練です。
心理ゲーム 端末上で、巨人や城などが現れる世界を探索します。 心の状態が反映され、のちに女王との接触にもつながります。
コマンド・スクールの艦隊戦 仲間の指揮官とともに、画面越しに艦隊へ指示します。 メイザーとの模擬戦だと教えられながら、実際にはバガーとの戦争を指揮しています。

最終試験だけが突然実戦へ切り替わった、と読むのも原作の説明とは違います。メイザーのもとで仲間と続けていた戦いの意味が、最後に明かされるのです。

また、遠隔で「指揮する」ことと、無人の船を「操縦する」ことも違います。原作の艦隊には乗組員がいて、エンダーたちの指示が通信装置を通じて伝わっています。味方の艦を犠牲にする戦術も、ゲーム上の駒を失うだけではありませんでした。

結末の意味をどう読むか

なぜ大人たちは、実戦であることを隠したのか

エンダーの才能は、敵の考え方を理解して、その弱点を見つけられることです。しかし、理解した相手を殺すことに耐えられるとは限りません。軍は彼の戦術を必要としながら、その良心が作戦を妨げることを恐れています。

ゲームとして提示すれば、エンダーは戦術に集中できます。勝敗の向こうにいる人や異星人の命について、判断に必要な情報を与えないまま、決断だけを任せることになるのです。

軍が彼を孤立させる訓練も、この結末につながります。自分で考えて勝つ力を育てながら、何のために戦い、どこまでの犠牲を許すかについては、大人が決めています。

心理ゲームの風景と女王の繭は、どうつながるのか

心理ゲームは、軍がエンダーの心の動きを観察するためにも使われています。しかし終盤には、それまで彼が端末の中で見ていた風景が、移住先の惑星に実在していると分かります。

女王たちは、エンダーに接触しようとし、彼の心理ゲームの風景を手がかりに、繭がある場所へ導く準備をしていました。最後の発見は、たまたま見つけた異星人の生き残りではなく、ゲームのなかの不思議な出来事とつながっています。

女王の説明によって、人類が恐れていた相手にも、誤解し、後悔し、生き残ろうとする側面があったと分かります。ただし、過去の地球への侵攻や犠牲がなかったことになるわけではありません。母星を破壊した事実と、一つの繭が残った事実も、分けて考える必要があります。

エンダーは英雄なのか、加害者なのか

作中では、人類を救った指揮官であり、バガーの母星を破壊した指揮官でもあります。どちらか一方だけを見れば、最後に彼が苦しむ理由は分かりにくくなります。

実戦だと知らされていなかったことは、エンダーの判断を考えるうえで欠かせません。一方で、何が起きたかを知ったあと、彼は勝利だけを受け入れて終わることもできませんでした。

ここからは解釈ですが、女王の繭を守る結末は、自分が傷つけた相手の側から戦争を語り直す選択として読めます。償いを始めることと、過去の被害が消えることは別です。その重さが、次作『死者の代弁者』へ続いていきます。

この結末を読むための問いとして、原書出版社の読書ガイドも、少年の訓練、最終試験、バガーを敵とみなす判断、戦後に見つける繭を取り上げています。

原作小説と映画の違い

映画『エンダーのゲーム』は2013年製作で、日本では2014年1月18日に公開されました。監督・脚本はギャヴィン・フッド、エンダー役はエイサ・バターフィールドです。配給元の公式ページと映画.comの作品情報で確認できます。

「訓練だと思っていた戦いが実戦だった」という核は共通しますが、原作の出来事がすべて映画に入っているわけではありません。

比較する点 原作小説 映画
エンダーの成長 6歳で選ばれ、何年もの訓練を経験します。 少年時代の訓練を、短い期間の流れとしてまとめています。
ピーターとヴァレンタイン ネット上で論争を行い、地球の政治に影響を与えます。 二人の政治活動は省かれています。
女王との出会い 戦後に移住した惑星で、女王の繭を見つけます。 最終決戦の基地がある惑星で、生き残った女王と出会います。
終わりの旅 ヴァレンタインとともに、女王の新たな住処を探します。 エンダーが女王の繭を携えて、一人で旅立ちます。

原作の結末を知りたい場合は、映画のラストから、そのまま原作の場面を想像しないほうが混乱を避けられます。映画と原作の比較は、両方を扱ったレビューでも詳しく述べられています。

作品情報・新訳版・続編

長編小説は1985年の作品です。それに先立つ1977年の同名短篇があり、同じ題名でも分量と構成が違います。長編は1985年のネビュラ賞長編小説部門、1986年のヒューゴー賞長編小説部門を受賞しています。SFWAの受賞記録とヒューゴー賞の公式記録で確認できます。

日本語版には、野口幸夫訳の旧版と、田中一江訳の新訳版があります。

日本語版 訳者 巻数・刊行
『エンダーのゲーム』 野口幸夫 1冊。1987年刊行。
『エンダーのゲーム〔新訳版〕』 田中一江 上下2冊。文庫版は2013年11月8日刊行。

旧版は出版書誌データベース、新訳版は早川書房の上巻・下巻で照合しています。上下巻は別の物語ではなく、長編一作品を二冊に分けたものです。

次に読む本は、知りたいことによって選べます。

  • エンダーのその後を読みたい場合:『死者の代弁者』。 戦争のあと、異なる知的生命体を理解しようとする物語です。
  • バトル・スクールを別の視点で読みたい場合:『エンダーズ・シャドウ』。 ビーンを主人公に、『エンダーのゲーム』と同時期の出来事を描きます。

二つの流れは、原書出版社のエンダー・シリーズ紹介とシャドウ・シリーズ紹介でも区別されています。続編がある作品ですが、エンダーが戦争に利用され、戦後に自分の役割を選び直すまでの物語は、この一作で読むことができます。

カードは、長編版に寄せた序文で、当初この小説を『死者の代弁者』へつなぐために書いたと述べています。最後にエンダーが相手の種族を代弁する役割へ進むのは、次作の出発点でもあるのです。