『新しい太陽の書』は、ジーン・ウルフによるSFとファンタジーの境目にある長篇です。死にゆく太陽の下で、若い拷問者セヴェリアンが故郷を追われ、旅を通じて自分の役割を知っていきます。読む順番は『拷問者の影』から始まる四部作、その後に続篇『新しい太陽のウールス』です。
難しさは、用語の多さだけにあるわけではありません。主人公が見たものと、その意味を読者が読み取ることの間に距離があります。まず読む順番とネタバレを含まない概要を整理し、後半で四部作の結末と語りの仕組みを説明します。
『新しい太陽の書』を読む順番
日本語版は、次の順番で読みます。いずれもジーン・ウルフ著、岡部宏之訳です。
| 順番 | 書名 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 1 | 拷問者の影 | 四部作の第一巻 |
| 2 | 調停者の鉤爪 | 四部作の第二巻 |
| 3 | 警士の剣 | 四部作の第三巻 |
| 4 | 独裁者の城塞 | 四部作の第四巻 |
| 5 | 新しい太陽のウールス | 四部作の後に続く物語 |
「四部作」と「五冊」という説明があるのは、最後の一冊が後から刊行された続篇だからです。『拷問者の影』だけが『新しい太陽の書』という名前の別作品なのではなく、シリーズ第一巻に当たります。早川書房の著作紹介と続篇の書誌で、この関係を確認できます。
第一巻を読まずに『新しい太陽のウールス』へ進むと、主人公の立場や過去の出来事を把握しにくくなります。謎が多い作品ですが、順番を入れ替えて読む仕掛けではありません。
あらすじ――拷問者が故郷を出るまで【ネタバレ控えめ】
主人公セヴェリアンは、ネッソスの城塞で拷問者組合の一員として育ちます。組合の仕事は、命じられた拷問や処刑を行うことです。彼にとっては、それが生まれ育った社会の決まりでした。
しかし、囚人の女性セクラへの思いから、組合の掟に背きます。城塞を追われた彼は、剣テルミヌス・エストを携え、地方都市スラックスで警士として働くために旅に出ます。その過程で手にする「調停者の鉤爪」が、旅をさらに大きなものへ変えていきます。シリーズの概要
出発時の目的は、世界を救う冒険へ飛び込むことではありません。まず生きていく場所と仕事を得ようとした青年の旅が、衰えた世界の運命につながっていく。その広がり方が、この作品を読む際の大切な手掛かりです。
舞台ウールスは異世界ではなく、遠い未来の地球
剣、城塞、拷問者組合といった言葉から、中世の異世界を想像するかもしれません。しかし舞台のウールスは、太陽が衰えた遠い未来の地球です。古い文明の痕跡や、現代の読者には別の意味が見える描写が、主人公の日常の中に混ざっています。ピーター・ライトによる批評
理解しにくい物が出てきたとき、まず「セヴェリアンはこれを何と呼んでいるか」と「読者には何に見えるか」を分けると、読み進めやすくなります。彼にとって当たり前の景色は、こちらにとって説明を必要とするものでもあるからです。
たとえば、昔の宇宙飛行士を描いた絵が、主人公の目には鎧を着た人物の絵として映る場面があります。主人公の言葉を現代の意味へ置き換えることで、世界の来歴が見えてきます。この描写はブライアン・エヴンソンの批評でも取り上げられています。
四部作のあらすじと結末【ネタバレあり】
ここからは、第四巻までの到達点に触れます。読む順番だけ知りたかった方は、先に第一巻へ進んでください。
第一巻『拷問者の影』――城塞からの旅立ち
セクラの死に関わり、セヴェリアンは組合を去ります。旅の途中で出会った人々との関係や決闘を通じ、狭い城塞の外の世界を知っていきます。第一巻は、主人公の立場と、読者が読み解くべき世界の入り口を示す巻です。
第二巻『調停者の鉤爪』――他者の記憶が入り込む
旅を続けるセヴェリアンは、セクラの記憶と人格を自分の中へ取り込みます。彼が語る「私」を、単独の一人として読むだけでは足りなくなる出来事です。詳しい人物の関係は、まずこの変化を押さえてから追うと整理できます。
第三巻『警士の剣』――与えられた役割を離れる
スラックスで警士となったセヴェリアンは、再び職務と人への情けの間で行動を選び、街を離れます。地位を得れば旅が終わるわけではなく、自分に与えられた役割から離れることが、さらに先へ進む契機になります。
第四巻『独裁者の城塞』――誰の記憶を引き継ぐのか
戦争の中でセヴェリアンは独裁者と再会し、その記憶と人格を引き継ぎます。独裁者の中に蓄積されていた多くの人々の記憶も受け継ぎ、新たな独裁者としてネッソスへ帰還します。四部作は、追放された若者が統治者になるところまで進みます。語りと記憶の変化を論じたエヴンソンの批評
ただし、地位の変化だけで作品を読み終えると、彼の「私」がどう変わったのかを取り落としてしまいます。多くの他者を含む人物になった後の彼が、自分の過去を一人称で書いている。その構造を振り返ると、それまでの語りも違って見えてきます。
続篇『新しい太陽のウールス』は何を描くのか
『新しい太陽のウールス』は、独裁者となったセヴェリアンが、老いたウールスに新しい太陽をもたらすため、宇宙船に乗って新たな旅へ出る物語です。四部作の先へ進む続篇であり、第一巻の書き直しや用語集ではありません。続篇の内容紹介
四部作を読んだ段階の結末と、続篇を読み終えた段階の結末を混ぜないことが大切です。前者の中心は、セヴェリアンの遍歴と独裁者への継承です。新しい太陽をめぐる、その先の旅を読みたい場合に続篇へ進みます。
ここでは続篇の細かな結末は扱いません。第四巻を読み終えた方が、次に何を読むか判断できるように、四部作との関係を整理しています。
なぜ難しいのか――全部の謎を先に解く必要はありません
読みにくさを感じたら、人物の目的と、語りの謎を分けて追うとよいでしょう。「いまどこへ行こうとしているのか」「その場で何を選んだのか」は、まず物語の流れをつかむための問いです。「この人物は本当は誰か」「何が語られていないのか」は、その後に戻って確かめる問いになります。
初読では、セヴェリアンが故郷を追われ、仕事を得ようとし、そこからさらに役割を変えていく流れを追います。気になる表現や説明のない場面を残しておくと、後の巻で意味が見えた際に戻れます。すべてを外部の解説で確定してから読む必要はありません。
科学や技術の言葉が日常の外観に埋め込まれているSFとしては、『ハイペリオン』も、異なる人物の物語を通して世界の輪郭が見えてくる作品です。ただし、『新しい太陽の書』では、同じ語り手をどう読むかが特に大きな問題になります。
「完全な記憶」と「信頼できる語り」は別です
セヴェリアンは、忘れない記憶を持つと述べます。だからといって、語られた出来事の意味がすべて説明されているとは限りません。記憶していること、語る内容を選ぶこと、出来事を理解することは、それぞれ別です。
エヴンソンは、明白な嘘だけでなく、語られない部分や、出来事の順番と語る順番のずれに注目しています。さらに他者の記憶と人格を取り込むにつれて、「私」が誰なのかという問題自体が変わります。語り手を論じた批評
「曖昧なのは主人公が忘れっぽいから」と片付けると、この構造が見えなくなります。彼が何を語ったかに加え、何を説明しなかったかを確かめる。そこから読み直すと、難しさが作品の仕掛けとして見えてきます。
参照資料
- 早川書房:ジーン・ウルフの主要著作
- 出版書誌データベース:『新しい太陽のウールス』
- Peter Wright:Mapping a Masterwork
- Brian Evenson:語り手セヴェリアンについて
- Wikipedia:『新しい太陽の書』の巻別概要
物語の概要と、読み方についての解釈を分けて記しています。